守田敏也さん講演録シリーズ 〜第5回〜

【具体的な事例
〜仙台の市民測定所『小さき花』〜 】

具体的には、僕は例えば仙台の測定所の方たちに知り合いが多くいます。その中で「小さき花」という測定所はご存知ですかね。石森さんという方が運営しています。この方は農民科学者です。彼はもの凄く研究熱心で、測定でもかなりレベルの高いことを行っています。その石森さんは、当初、市販されている牛乳をぱかぱかと測りました。そうしたら最初の頃は1リットル当たり50ベクレルぐらいの放射線値が出てきた。彼はどんどんそのデータを公表したのですね。
彼は積極的に会社の名前を明らかにして公表するやりかたをとって、周りから「石森君、このままだと君刺されるよ」などと言われながらも頑張りました。実は弁護士さんが、石森さんが訴えられたときには守るというバックアップ体制を独自に作っていたそうです。そんな中で彼はどんどんデータを公表し続けた。
そうしたら、公表された同じ銘柄の牛乳の放射線値が劇的に下がっていったのです。石森さんが公表してしばらく経つと、50ベクレルだったのが30ベクレルぐらいになって、さらに30ベクレルというデータを出すと今度は20ベクレルくらいになっていった。
つまり業者さんが対応したのだと思うのですね。この場合、業者さんも汚染の中で生産者をどう守るかという発想の中にあったから、何か悪いことばかりを考えているように言ってはいけないところもあるとは思うのですけども、おそらく、どこの農場がより汚染されているかを知っていたと思うのですよ。牛乳はあちこちから搾乳してきたものをブレンドしますよね。そのブレンドを変えて、50から30に下げることができたのではないか。ともあれデータをどんどん公表したことによって、数値がどんどん下がっていって、今はもうほとんど検知されなくなっています。
これと同じようにあちこちで測定所が立ち上がることで、食材を提供するいろいろな会社が、放射能が出ているものを自分たちが提供してはいけないだろう、あるいはできないだろうということで自主的に規制をして供給するものの放射線値を下げていく努力を重ねるということがあったと思うのです。
「グリーンピース」が、「西友」などに「お友だち作戦」でアプローチして、政府よりも厳しい独自の基準を作り、放射線値を測って商品を出すようにするように促したケースもありました。そういういろいろな努力が重なって、食材の安全性が高まったと思うのです。

【測定所は、『裁く』ための機関か?
〜測定所が人びとを守った一例〜 】

苦労もいろいろありました。僕が聞いた話では…当初はこの話は絶対表に出してはいけないということだったので、今でも場所や時期は言えませんが、ある測定所が行政の依頼でシイタケを測ったのですね。そしたらものすごく高い値が出てしまったのです。そのことに対してシイタケを栽培している会社の社長が殴り込んで来たそうです。ただし測定所の人を殴ったとかいうのではなくて、もっと悲惨で「次にお前のところでうちの会社のシイタケの値を出したら、俺はここで割腹自殺してやる」と言ったのだそうです。従業員一ケタの会社さんが存亡の危機に立ってしまっていたのです。
当の測定所の方たちもかなり苦しんだそうです。幾つかの測定所が集まって、こうした場合をどう考えるか話し合って、「測定所は業者を裁く機関ではないのではないか」という意見も出された。そういう場合のデータ公開に対する考えにそれぞれの違いもあり、意見はすっきりとはまとまらなかったのですが、いずれにせよ、測定をすることで、追い詰められる小さな会社もありうることを頭に入れての運営が必要だということになりました。もちろん「だからといって、それだけの数値が出ていることを明らかにしないでいいのか」という問いも出てきます。そういうせめぎ合いや苦しみがありました。
あるいはある地域では、地下水から放射能が出たのです。調べてみたら、昔、沼地だったところを造成した土地で、地下に地上の水が浸透しやすいような場所だった。地下水からはあまり放射能は出ないと思われていたので、ショックが大きかったのですが、この場合も、それをつかんだ測定所がかなり悩んで、結局、値を公表しなかったのです。公表しないで口コミの形で、地下水を飲んでいる人たちに、飲まないようにというアドバイスを回していく方法を採った。それが良い、悪いという意見がありうると思うし、明確な方針を持っている測定所の方たちもあると思うのですが、汚染の公表は、仕方によってさまざまな波及効果を持ちうるので、悩みがつきない側面があったのです。そんな人知れない苦労がおそらくもっとたくさんある中で、全体として、多くの測定所が人々の命、身体を守ろうと懸命な作業を続け、成果があちこちで積み重なっていったのだと思います。そのことで間違いなく市民生活の安全度が高まったと思うのですね。

何より放射能にまったく関心がなく、まったく普通に、食材を買っている方たちもかなり守られました。だから、市民測定所が作り上げた功績は、本当に計り知れないものがあると思います。
あるいは例えば奈良に測定所ができて、測定がされているから、この地域に汚染物が持ち込まれにくいということも間違いなくあります。
食材はあちこちを回っていますが、チェルノブイリ事故後のドイツの例で、測定所のないところに汚染物が入っていく傾向が強かったのです。測定所があるところは不検出が続くのですよ。汚染物が入りにくいからです。だから不検出が続くこと、測り続けて安全性を確認していることには、実は明確な意義があるのです。
ところが、このことが社会的にぜんぜん理解されていません。そのため不検出が続くと検体を持ち込む側の、測るインセンティブ(incentive :人や組織のモチベーションを誘引するもの)が落ちてしまうわけです。何回測っても放射能は出なかったからもう大丈夫だろう、もう測定所まで行って、面倒臭い思いをしなくてもいいやと思えてきてしまう。
実際に、僕はこの先も、それほどの汚染は出ないと思うのです。事故当初のように直接、作物の上に大量の放射能が降ったということはもうないし、セシウム134などが半減期によって減っているということもありますが、業者さんの側も汚染を少なくする一定の形のようなものを作ってきていると思うのです。
それでもあれだけの放射能が出てしまったのだから、汚染物は確実にある。ではどこにそれが行っているのかというと、やはり外食産業でしょうね。あるいは初期には安売りスーパーなどに流通していった。
福島から京都市に避難されてきている女性に聞いたのですけれども、彼女の一家は、福島を3月15日に飛び出しているので、初期被曝はほとんど受けてないはずなのです。ところが初め、大阪に移住したのですが、暫くしてからすごい被曝症状が出てきたという。その根拠は何かと言うと、近くにある大手の安売りスーパーで、いつも安い食材を大量に買い付けていたことしか考えられないというのです。その食材で「なんて大阪は食べ物が安いんだろう、こんな大きなお魚がこんなに安いなんて嬉しいわ」と、毎日、毎日食べていたのだそうです。すると、どんどん体の調子が悪くなってしまったそうです。
福島県のいわき市にある測定所にホールボディーカウンターがあって、人々の被曝量の測定を行っているのですが、そこでも、実はいわき市民よりも、出張で大阪から来ていた人の方が高い値が出たという事例があったそうです。そのことにも顕著なように、危険な食材は、「安かろう悪かろう」というところや、経費削減のためにそうした業者さんから仕入れている外食産業に流れている可能性が高いです。特に怖いのは魚ですよね。汚染魚が、どのように市場に回っているのかまったくわからない。加工されてしまったら、より分かりにくくなりますしね。
あるいは最近は、100円寿司どころか、80円寿司とかありますよね。そんなに安い値段で、高級魚が食べられるはずがないのであって、もともとフェイクの魚を使っていたり、かなり質の悪いくずのような状態になったものを使っているということが、福島原発の事故の前から言われていたのですけれども、そういうところに汚染魚が入っている可能性がある。

【不検出でも測り続けること
〜測定所を今後も続けていく意味〜 】

だからこうした状況の中で測定所を続けていくことには極めて重要な意味があります。つまり、汚染物は明らかにあるし、海の汚染は今も続いてるわけです。あと考えたくないことですけども、もう一度、福島原発の事故が拡大する可能性も間違いなくあります。原発が不安定になり、小規模な爆発・大規模な爆発が起こることもありうるのです。このときのことも踏まえて測定所を維持していく、これはとても大事なことです。大事なのだけれども、インセンティブそのものは落ちていってしまう。この中で測定所を回していくことには、厳しいものがありますよね。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

第5回を終わります。
続いては、
市民放射能測定所がこれから何をやっていくべきか についての
守田さんからの三つの提言を アップします。

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